足早な彼女と笑顔の秘密 ~同級生富士葵 登校編~
「おはよう、今日も寒いね」
そう言って後ろから声を掛けてきたのは、同じ学校に通う富士さんだった。
彼女とは通学ルートが一緒だからか偶にこうやって朝に会うことがある。
あんまり女の子と話すのが得意じゃない俺にとっては、こうやって話しかけられるだけでちょっとビックリしちゃう。
「ふ、富士さんは今日も元気だね」
そう言って彼女の方を見るといかにも冬が来たといった感じの制服にマフラーな彼女が歩いていた。スカートで寒くないのかな俺だったら絶対寒くて文句言ってそうだよ…。そんなくだらないことを考えながら歩く速度を合わせる。
「そういう○○君も朝早いじゃん、元気な証拠!元気な証拠!」
確かに言われてみれば今日は目が覚めてしまったこともあり、少し早めに家を出ていた。
「たまたま早起きしちゃって、富士さんは部活とかやってたっけ?」
「部活じゃないんだけど、楽しみなことがあるの!それに向けて最近は朝練してるんだ」
富士さんの楽しみな事って何だろうか?その為に朝練習?もちろん何が楽しみなのかとかは全然思い浮かばない。
でもこれを直接聞いて良いのかなぁ、そこまで仲良くないのに踏み込み過ぎじゃないだろうか…?
そんなことを考えていたら彼女は足早に歩いて行ってしまう。
「楽しみな事って、何かあるの?」
ついそんな言葉が口から出てきていた。
やばいなぁそこまで親しくもない(と思っている)俺なんかが急にこんなことを言ったら嫌な気分にさせちゃうのでは無いか、そんな一抹の不安が頭の片隅をよぎる。
少し前を歩いていた彼女にその言葉が届いた数秒後、こちらを振り向いて笑顔になりながらこう言った。
「7日をお楽しみに、じゃあ練習に行くから先行くね!○○君も早く学校こいよー」
7日なにがあるんだ?とか考えていたらその先の言葉を発する前に彼女は足早に歩いて行ってしまった。
彼女とちょっと話せただけでちょっと気持ちが楽しくなるんだから、早起きしちゃったのも悪い事ばかりじゃないな。ちょっとした彼女の秘密?も知れたからね。
何があるんだかわからないけど、その去り際の笑顔が忘れられなくて俺はスマホのカレンダーに(7日:富士さんの楽しみな事)ってメモを残したりした。
自分のことじゃないのに何か不思議と7日までの日々が楽しみになった気がする。そんな朝の通学路のお話…